2024 .11.21
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2010 .06.24
曲の試聴はこちら。
井上陽水「リバーサイドホテル」アルバム「LION&PELICAN」収録
井上陽水「Summer」アルバム「招待状のないショー」収録
片や、1988年のドラマ「ニューヨーク恋物語」の主題歌としてリバイバルヒットした、陽水の代表曲の一つ。片や、陽水が吉田拓郎、泉谷しげる、小室等らと共に1975年に設立したフォーライフ・レコードから最初にリリースしたアルバム中の、比較的マイナーな1曲。
この2曲に共通しているのが、コルグの原始的なリズムボックス(ドンカマチック系)のパターンを下敷きに楽曲が組み立てられている点だ。
陽水使用のものと同機ではないと思われるが、同シリーズのリズムボックスはこのような代物。
ディスカバリーファームのヒストリー・オブ・コルグ というサンプリングCDには、ドンカマチックのプリセットとして「リバーサイドホテル」に使われているのと同じパターンが収録されている。その記載が正しければ、曲に使われたのは60年代後期〜70年代初期の、ドンカマチックの名が冠された比較的古いモデルと推察できる。
このドンカマチックというリズムボックスだが、オルガン演奏や酒場のギター流しのリズム伴奏として結構広く使われていたとの事。内部は完全なアナログ回路で、本格的なシンセの登場以前から存在していたようだ。かのテクノの神様KRAFTWERKは、おそらくコルグ製ではないが同種のリズムボックスを分解&改造して、スティックで演奏できる電子ドラムを自作したそうだ(出典:クラフトワーク ロボット時代)。
故・忌野清志郎が生前、エッセイで陽水と一緒に曲作りをした時のエピソード(1990年代初頭)として「曲作り用のマンションの部屋まで持っているのに、古臭いリズムボックを使っていた」といった事を書いていたと記憶している。この記述から、1975年リリースの「Summer」で使われていたリズムボックスは、少なくとも90年代まで現役であった可能性が高い。
同エッセイ中で忌野は陽水の発言として「僕は曲作りの時リズムから入らなきゃダメなんだよ」と語っていたと書いているので、長年デモ作成のツールとして愛用していたのだろう。
それを裏付けるように「Summer」は作詞作曲に加え編曲まで陽水自身とクレジットされており、完成版もデモテープ的な雰囲気を色濃く残している。収録アルバムの「招待状のないショー」全体が、小規模なスタジオで宅録にも通づる空気感を残しながら作られた作品なので、特にデモと本番という意識が無く重ねられたテイクが基になっているのかもしれない。
ドンカマチック系リズムボックスのパターンはラテン系のものが多く、実際「Summer」は南洋を想起させる雰囲気に仕上がっている。他の楽器でリズムを差し替えるより的確な選択と言えるだろう。小品ながら、リズムボックスの本質を捉えた名曲と言える。
一方「リバーサイドホテル」は、淡々と続く一定のリズムが、言い知れぬ背徳感や緊張感を醸し出し、異様な耽美性を湛えたトラックに仕上がっている。この曲もおそらくデモ段階からのリズムボックスを残したと思われるが、アレンジャーの星勝によりそこにダビングされたギミックの数々には筆舌に尽くせぬ程のセンスが感じられる。
筆者はまだあまり音楽的知識の無い中学生当時、曲中に現れては消える浮遊したサウンドはシンセによるものだと思っていた。だが、ある程度楽器の知識を得た後に再び分析すると、その大部分はギターの技巧的な演奏とエレピによるものだと気付いた。奏法、フレーズ、エフェクト、ミックス各々のさじ加減により、通常のギターサウンドからはなかなか連想できない工芸品的なサウンドが形成されていたのだ。
「リバーサイドホテル」というと、カラオケでよく歌われるシュールでちょっとエロい歌詞の曲、という認識が大勢だと思うが、スタジオワーク&アレンジの逸品として是非とも分析して頂きたい。聴き込む程に驚かされる要素に溢れているはずだ。
双方ともコルグ製リズムマシンのパターンをベースにした「Summer」と「リバーサイドホテル」という2曲。こうした観点で聴いてみると、またさらに何倍も違う味わいを得られるはずだ。
井上陽水「リバーサイドホテル」アルバム「LION&PELICAN」収録
井上陽水「Summer」アルバム「招待状のないショー」収録
片や、1988年のドラマ「ニューヨーク恋物語」の主題歌としてリバイバルヒットした、陽水の代表曲の一つ。片や、陽水が吉田拓郎、泉谷しげる、小室等らと共に1975年に設立したフォーライフ・レコードから最初にリリースしたアルバム中の、比較的マイナーな1曲。
この2曲に共通しているのが、コルグの原始的なリズムボックス(ドンカマチック系)のパターンを下敷きに楽曲が組み立てられている点だ。
陽水使用のものと同機ではないと思われるが、同シリーズのリズムボックスはこのような代物。
ディスカバリーファームのヒストリー・オブ・コルグ というサンプリングCDには、ドンカマチックのプリセットとして「リバーサイドホテル」に使われているのと同じパターンが収録されている。その記載が正しければ、曲に使われたのは60年代後期〜70年代初期の、ドンカマチックの名が冠された比較的古いモデルと推察できる。
このドンカマチックというリズムボックスだが、オルガン演奏や酒場のギター流しのリズム伴奏として結構広く使われていたとの事。内部は完全なアナログ回路で、本格的なシンセの登場以前から存在していたようだ。かのテクノの神様KRAFTWERKは、おそらくコルグ製ではないが同種のリズムボックスを分解&改造して、スティックで演奏できる電子ドラムを自作したそうだ(出典:クラフトワーク ロボット時代)。
故・忌野清志郎が生前、エッセイで陽水と一緒に曲作りをした時のエピソード(1990年代初頭)として「曲作り用のマンションの部屋まで持っているのに、古臭いリズムボックを使っていた」といった事を書いていたと記憶している。この記述から、1975年リリースの「Summer」で使われていたリズムボックスは、少なくとも90年代まで現役であった可能性が高い。
同エッセイ中で忌野は陽水の発言として「僕は曲作りの時リズムから入らなきゃダメなんだよ」と語っていたと書いているので、長年デモ作成のツールとして愛用していたのだろう。
それを裏付けるように「Summer」は作詞作曲に加え編曲まで陽水自身とクレジットされており、完成版もデモテープ的な雰囲気を色濃く残している。収録アルバムの「招待状のないショー」全体が、小規模なスタジオで宅録にも通づる空気感を残しながら作られた作品なので、特にデモと本番という意識が無く重ねられたテイクが基になっているのかもしれない。
ドンカマチック系リズムボックスのパターンはラテン系のものが多く、実際「Summer」は南洋を想起させる雰囲気に仕上がっている。他の楽器でリズムを差し替えるより的確な選択と言えるだろう。小品ながら、リズムボックスの本質を捉えた名曲と言える。
一方「リバーサイドホテル」は、淡々と続く一定のリズムが、言い知れぬ背徳感や緊張感を醸し出し、異様な耽美性を湛えたトラックに仕上がっている。この曲もおそらくデモ段階からのリズムボックスを残したと思われるが、アレンジャーの星勝によりそこにダビングされたギミックの数々には筆舌に尽くせぬ程のセンスが感じられる。
筆者はまだあまり音楽的知識の無い中学生当時、曲中に現れては消える浮遊したサウンドはシンセによるものだと思っていた。だが、ある程度楽器の知識を得た後に再び分析すると、その大部分はギターの技巧的な演奏とエレピによるものだと気付いた。奏法、フレーズ、エフェクト、ミックス各々のさじ加減により、通常のギターサウンドからはなかなか連想できない工芸品的なサウンドが形成されていたのだ。
「リバーサイドホテル」というと、カラオケでよく歌われるシュールでちょっとエロい歌詞の曲、という認識が大勢だと思うが、スタジオワーク&アレンジの逸品として是非とも分析して頂きたい。聴き込む程に驚かされる要素に溢れているはずだ。
双方ともコルグ製リズムマシンのパターンをベースにした「Summer」と「リバーサイドホテル」という2曲。こうした観点で聴いてみると、またさらに何倍も違う味わいを得られるはずだ。
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